GWの金曜日なのに一日中仕事。それはまさに独立で働く楽しみの一つだ。終わったら自転車に乗って、友人との約束を守るために赤坂の険しい丘を挑んで原宿へ向かう。Aux Bacchanalesに着いたらテーブルを待ち、周りに目をやった。相変わらずマルチ文化的な連中が外にも中に散らばっていて、何ヶ国語の言語が耳元に競い合ってくる。オードブルの盛り合わせと白ワインをエンジョイしながら友達を待った。

間違いなく、確かに、必ず遅刻する彼が30分も遅れて来たのは驚くに値しなかった。いつものとおり荒い呼吸をしていて、間に合うように走ってきた振りをしていたが、僕が、彼がタクシーから降りた姿を見たことを知らなかったのだろうが。

「やあ、マイケル。元気かい?」と彼はさっと辺りの様子を見渡しながら言って腰を下ろした。
「まあ、天気がよくて、美人が次々と通り過ぎているカフェでワインとチーズをエンジョイしてることって、オレ的にぴったりさ」と完全に満足しているように答えた。
「よかったな」と言って、ウェイターを呼んだ。

ステーキと「フレンチ」フライを頼むと、すぐに運ばれてきた。僕は一回そこの「ステーキ」を挑戦したのだけど、食べ終わってから三時間ぐらい後悔した。肉と油の列車にひき殺されるように感じたからだ。あの肉を未だに消化し切らず身体のどこかで持ち歩いているのは確実だ。

しかし彼が活気に溢れて食べ出す姿を見たら自分の経験を伝えることができなかった。八つ裂きにされ口に詰め込まれていくその肉を見たら、一生彼の身体から消え去らないだろうと思って、少し哀れんだ。(ステーキの宿命をね。)

しばらく雑談した後友人と別れて家に向かった。途中でNARUというジャズバーの前を通ったら、思い付きで一杯やって帰ることにした。

狭い階段を下りて店に入った。満席の様だったが、奥の空いている席へ可愛い女の子に誘導してもらった。テーブルにつくと隣に座っている二人のオヤジが小さくない声で「ほら!ガイジンだ!」とばかげたことを言った。注意を払わず座ってワインを頼んだ。

女性二人が演奏していた。ピアノとボーカルだけだったが綺麗なバラードなどを歌った。なのに、隣のアホらはず~っとおしゃべりしていたのだ。「ウマイっすね!いいな~。ね!」など途切れなくしゃべりつづけた。それでよせばいいのに曲の特に静かなところでは次のような話をし始めた。「さ~、そろそろ帰ろうかな?」とか「腹減ったな~」など。そして曲が終わったら、(たぶんあるガイジンを感動させるために)「イェアー」や「ワオー!」を必ず言った。

「もう最悪、この野郎!」とキレそうになった時、後方から新しい音が立てられてきた。「今さらなに?」と思って、しばらく耳を傾けた。舌鼓だった。おまけにどんどん激しくなった!まるでポークリブをしゃぶってるように聞こえた。思わず自分の足元を見て、その辺から血が流れてきてないことを確かめた。

それだけだったら耐えられただろうが、ちょうどその時に違う方からジッポーを持っている人がカチャンカチャンと遊び始めた。火を付ける訳でもなく、何回も、何回も繰り返した。

おしゃべりと舌鼓とジッポー。あたかも無作法なシンフォニーに流されてしまったかのように感じたマイケル。思わずに立ち上がり、適当なお金をバーテンダーに投げ、自分の絶叫だけ残して涼しい夜の空気に逃げ込み振り向かず家まで走って帰った。